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Sorry, japanese only. ----update 99.06.21
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第2回設計方法シンポジウム 「ネットワーク・コラボレーション」のためのインタビュー
 ・みかんぐみ
 ・磯崎 新アトリエ
 ・AA-Net
第3回設計方法シンポジウム 「コラボレーションによるデザイン」のための記事
 ・第3回設計方法シンポジウム案内

■建築デザインとコンピュータ・サイエンス■
●建築デザインにおけるコンピュータ利用
 90年代の初頭から、建築デザインにコンピュータ・プログラムを利用するプロジェクトを行って来た。当時はようやく建築デザインの分野にCADが利用され始めた頃で、新しいデザイン・ツールとしてのコンピュータが注目され始めた時期でもある。早くから構造計算の分野や一部の設備系のシミュレーションなどでは、コンピュータの利用はなされていたが、建築デザインの持つグラフィカルな操作にパーソナル・コンピュータの処理能力がようやく追いつき始め、意匠系への応用が可能になったことが大きな要因と考えられる。現在では、設計者が当たり前のようにCADやCGを利用して図面作成やプレゼンテーションを行い、さらにはFMやGIS、イントラネットなどのデータベースの活用や、ネットワーク・コラボレーションによる建築設計など、その応用範囲も拡大している。ただ、コンピュータに興味のある一部の建築家の中には、当初からコンピュータのアーキテクチャーそのものやコンピュータ・サイエンスが建築デザインや形態を構築するロジックに影響を与えるのではないかと考える者も少なくなかったように思われる。こうした考えをもつ建築家との出会いがきっかけとなって、CADやCGの利用だけではない、コンピュータ・プログラムを用いた建築デザインのコラボレーションワークが試みられることになった。

●プログラムによる建築デザインの経緯−−(磯崎アトリエとのコラボレーション)
 コラボレーションの始まりは磯崎アトリエ設計のブルックリン・ミュージアム(天井設計)ディズニー・オフィスビル(タイルパターン設計)あたりだったと思われる。ディズニー・オフィスビルは、記憶している方々も多いだろうが、オフィスの中央に日時計のあるコーン状の中庭が設けられた建築である。当初この外壁をタイル貼りにする予定で、そのタイル割りをコンピュータでパターン・シミュレーションすることになり、幾つかのプログラムを開発した。結局、仕上げがスタッコに変わり、ここではこのプログラムは採用されずに終わったが、ブルックリン・ミュージアムやディズニー・オフィスビルをきっかけに、建築家サイドがプログラムによるデザインの可能性を認識したことが次のステップにつながったと考えられる。また我々プログラマ・サイドはこの段階では設計者の仕様に合わせてプログラムを開発するだけで、何か物足りなさのようなものを感じていたように記憶している。
 次に京都コンサートホールの設計では、コンサート・ホール内の天井に関してプログラムを利用したデザインが計画された。これは音響設計側から天井の性能として音の拡散を図ることが要求されたためである。建築設計サイドでは何種類かの突起物を天井いっぱいに並べる案が考え出され、そこで我々に相談が持ち込まれた。設計者としては恣意的なデザインを避け、なおかつ音の不規則な拡散を満足させるには、プログラムによる決定方法が最も合理的と考えたようである。ここで我々は音の波形に注目して、ランダム・ゆらぎ・フラクタルの理論を応用したプログラムを提案した。つまり、ランダム波形(白色ノイズ)から、ゆらぎの波形(風などの無機物の波形)、フラクタル波形(植物など有機物の波形)と発展してホールの天井を形造り、最後に人の造り出す音をホール内に響かせてもらたいといった意図が込められていた。設計者と我々の間で、フラクタルやゆらぎについての説明やそれをどのようにデザインに反映するかなどの話し合いが数回持たれ、プログラムが作成された。そして最終的に設計サイドがデザインした15種類の突起物を我々がシミュレーションした結果に当てはめ、CADデータとして画面に出力した。この時現れた図形は我々にとっても設計者にとっても驚きであった。何故なら、我々にとっては幾つかのパラメータの数値調整や、シミュレーション結果の数値マトリクスでしかなかったものが、不思議な造形を生んでいたからであり、また、設計者にとってはそれまでのデザイン・ツールでは絶対に生み出せない形がそこにあったからである。京都コンサートホールは95年に完成し、音響の評判も上々の様子である。
 同じく磯崎アトリエの依頼で次に行ったのは人工島の計画で、ここでは人工生命のロジックを都市計画に応用した。97年の5月から7月にかけて「海市展」としてNTT−ICCでこの計画についての展覧会が行われた。この頃になると、プログラムよるデザインに対する抵抗は全く無くなり、設計者自らがプログラムを開発してしまうほどで、積極的にコンピュータ・サイエンスの新しい分野の理論を建築設計に応用しようとする動きが見受けられる状況である。

●コラボレーションを行うための基盤−−(シーラカンスとのコラボレーション)
 磯崎アトリエと同様に、シーラカンスとの関係も10年余りに及ぶ。事務所へのCAD導入の相談から始まり、「スペース・ブロック」に関する協力やCD−ROMの制作など、彼らが当初から抱いていたコンピュータ技術への関心と我々が持つ建築デザインへの興味とが、徐々に互いの信頼関係を築いて来たように思われる。プログラムを用いた建築デザインを実際に行う場合、どうしてもデザインの根幹に関わる作業となるため、我々に対する建築家の信頼度と彼らのデザイン手法の方向性とが問題となる。互いにフランクに話し合える関係であるかどうか、デザインのアイデアに対して如何に整合性のあるプログラムを開発できるかが、結果の正否に大きく影響を与える。従って、こうしたコラボレーションの成果を得るためには、それを行う充分な基盤がどうしても必要になる。しかし、社会全体の情報化の流れが建築設計の分野にも大きな影響を与えている現在では、そうした基本的な認識の共有は容易になってきたと感じている。多くの建築設計者がCAD・CGを使いこなし、コンピュータに対する抵抗の無くなった環境では、我々の手法が設計者にとって受け入れやすい状況にあり、また積極的にそうしたコラボレーションを活用しようという動きが感じられる。

●デザインの根拠とパラメータの美学−−(下田ハーバーミュージアム)
 最後にシーラカンスとのコラボレーションのよる2つのプロジェクトをケーススタディとして紹介する。ここでは具体的なコラボレーションの経緯とそこで感じられた事柄ついて述べてみたい。
 下田ハーバーミュージアム(ベイステージ下田)は下田市の中心街に入る国道に面したちょうど海と山に挟まれた細長い敷地に位置する。設計者であるシーラカンスK&Hの依頼を受けて、横に48スパン並んだ傾きを持った柱の配列方法をカオス理論を用いて導き出した事例である。プロジェクトの期間は98年6月末から7月にかけての2週間でこれまでのコラボレーションとしては最も短期間で終了した。与条件は建物の2、3階部分が傾いた柱を持つこと、互いに隣り合った柱どうしは逆向きに傾いていること、柱の傾きは大小2種類(左右で考えると4種類)であることなどで、これらの条件から配列の組み合わせは2の24乗、つまり16,777,216通りあることになる。ここでカオス理論を適用した理由は柱の配列のリズムが自然の持つリズムに近いものとなるよう誘導したかったからである。用いたカオスは最も単純な線分上のカオスXn+1=f(Xn)=Xn2-aで、aの値の僅かな違いによってf(Xn)は全く異なったカオス的振動を起こす。ここでf(Xn)の値がプラスの場合を1(柱の傾き小)、マイナスの場合を2(柱の傾き大)として柱の配列に置き換えた。こうして導かれた配列の中から、構造上の条件であるスパンの最大・最小値や柱の傾きの大小のバランス条件などを与えることでふるいに掛け、最終的には1つの配列に絞り込んだ。これは多くのシミュレーション結果の中から設計者が彼の美学的判断で1つを選び出したという訳ではなく、あくまでも与えられたパラメータの数値条件から誘導されたものである。
 この事例を考えるとき、多くの設計者がそのデザインの客観性や根拠を求めるベクトルがパラメータの設定方法やその数値条件に集約されていく課程を見るような気がした。勿論、構造設計者との2回の打合せで与えられた条件は現実的な根拠を持ち、カオス理論を用いることで単純な繰り返しのパターンは予め除かれて柱の配列が自然に近いリズムを持つように設定はされているが、こうした理論を受け入れ、パラメータの細かな数値を決定する課程で、設計者の美学的要素がこれらの数値の中に押し込められたという印象が強い。特に感覚が鋭く、幾らでも美しい形を創造できるタイプの建築家にそうした傾向があることが我々にとっては非常に興味深い事柄である。

●設計者自身によるシミュレーションとデザイン・ツール−−(鴻巣文化センター)
 次に紹介するのはシーラカンス(C+A)とのコラボレーションによる(仮称)鴻巣文化センター(クレア鴻巣)のプロジェクトである。鴻巣文化センターはホール・ホワイエ・展示スペース・管理施設など、各施設の必要容積や機能上要求される天井高をつなぎ、それらを滑らかな曲線で覆った建築形態をもつ。シーラカンス(C+A)から依頼された内容はこの3次曲線の屋根をシミュレーションするプログラムで、基本設計から実施設計及び施工段階まで使用可能なプログラムの開発である。プロジェクトの開始は97年の6月頃に遡り、99年春の時点でもプログラムの改善要求がなされている状況である。従って先に紹介した事例とは反対にこれまでのコラボレーションの中でも最も長期間にわたるプロジェクトとなっている。プログラムはAutoCadの外部コマンドとして開発され、 AutoCad上からこのコマンド・プログラムを呼び出し、高さ情報などを入力することにより、屋根形状がCADデータとして出力される。また入力データは別ファイルとして保存・呼び出しが可能になっている。こうしたプログラム仕様は、当初からCADを使う設計者自身がシミュレーションを行うことが出来るように計画されたためである。コラボレーションの経緯をたどっていくと、まず基本設計の段階では、基本的な入力項目や3次曲面の屋根の発生ロジックを考え、Bスプライン曲面の理論を採用してプログラムの開発を始めた。開発は中国のプログラマを使い、日本と中国とのやり取りを続けて第1段階のプログラムを完成させた。しかし大ホール部分の屋根が螺旋状の形態をしているため、曲面にねじれが生じることが分かり、屋根を分割計算できるように大幅なプログラムの改変を行った。次に実施設計ではAutoCadのバージョンアップに対応するため、全てのプログラムの再コーディングを行い、また設計者サイドからの要求で入力項目や入力方法の改善を施した。施工段階では具体的な部分の詳細検討が可能なように断面計算の項目をプログラムに追加した。ここまでの段階で設計者のシミュレーション回数は大きなものだけで30回を超えていた。
 こうした経緯を改めてたどってみると、設計者自身がプログラムを使用することで、プログラム開発者では見えない設計者のこだわりがこちらに伝わり、それらをフィードバックすることで、プログラムの成熟度がそのまま設計の精度につながっていく印象を受ける。またプログラムに対する設計者の理解度やロジックの特性の把握が、本当の意味での3次元設計につながり、屋根や天井の高さ調整や外観のバランスに少なからず影響を与えているように感じられる。このことはプログラムによるデザイン手法という枠を超えて、設計者の手に馴染み個性をもった設計ツールを開発する可能性を示しているように思われる。

(1999.06.18. 濱野慶彦 [AALab代表] )


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